相続税の書面添付(税理士法33条の2第1項/様式33の2①(資))
各記載欄 完全解説
令和6年4月以降の現行様式・東京国税局令和6年3月版記載例ベース
作成日:2026年5月27日 / 3段階精査(リサーチ × ファクトチェック × 統合)対応
対象様式:申告書の作成に関する計算事項等記載書面(資)/様式番号 33の2①(資)
0. 制度の根拠・趣旨と現行様式の全体構造
0-1. 制度の根拠と立法趣旨
税理士法33条の2第1項に基づく「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」(通称・書面添付)は、税理士が自ら作成した申告書について、計算・整理した事項および税務相談に応じた事項を記載して添付する書面です。同条2項の「審査事項等記載書面」とともに、35条1項の「調査通知前の意見聴取」制度(平成26年税理士法改正で「事前通知前」から「調査通知前」へ用語変更)とセットで運用されています。
制度趣旨(事務運営指針冒頭・国税庁QA):
「税理士が作成等した申告書について、それが税務の専門家の立場からどのように調製されたかを明らかにすることにより、正確な申告書の作成及び提出に資するとともに、税務当局が税務の専門家である税理士等の立場をより尊重し、税務執行の一層の円滑化・簡素化に資するとの趣旨」
すなわち、申告書という結果の数字だけでなく、その背後にあるプロセスと判断根拠を税務署に開示することが本制度の本質です。
0-2. 様式の正式名称と種類(令和6年4月以降)
令和4年税理士法改正を受け、令和6年4月1日以降提出分から、様式が税目別に分かれました。
| 様式番号 | 正式名称 | 対象 |
| 33の2① | 申告書の作成に関する計算事項等記載書面 | 法人税、所得税等(汎用) |
| 33の2①(資) | 申告書の作成に関する計算事項等記載書面(資) | 相続税・贈与税・譲渡所得 |
| 33の2② | 申告書に関する審査事項等記載書面 | 他人作成申告書を税理士が審査した場合 |
根拠通達:「税理士法第30条及び第33条の2に規定する書面の様式の制定について」(平成14年2月25日付制定、その後複数回改正)
0-3. 実務上の標準雛型
実務上の標準雛型は、東京国税局資産課税課が令和6年3月に発出した「書面添付制度に係る添付書面の記載例 資産課税関係(相続税・贈与税・譲渡所得)」(東京国税局単独発出)です。同種の文書は、関東信越国税局からも令和8年4月に税目横断版が独自に発出されています。事務運営指針も令和6年3月26日に一部改正されています。
0-4. 様式の全体構造
| ブロック | 記載内容 |
| 表紙 | 申告書の特定/税理士情報/所属税理士会等/税務代理権限証書の提出/依頼者/被相続人(資版固有)/※事務処理欄 |
| 1 | 提示を受けた書類等に関する事項 |
| 2 | 自ら作成記入した書類等に関する事項 |
| 3 | 計算し、整理した主な事項 |
| 4 | 相談に応じた事項 |
| 5 | 総合所見 |
| 6 | その他 |
| * | 追加記載する事項(A〜D欄) |
1. 「1 提示を受けた書類等に関する事項」欄
1-1. 欄の正式名称
左右2分割の表形式で、正式名称は以下のとおりです。
| 左欄 | 右欄 |
| 書類等(申告書の作成に関し、計算し、又は整理するために用いたものに限る。)の名称 |
左記の書類等以外の書類等 |
※「先の書類等以外の書類等」というのは旧表記または通称。現行様式では「左記の書類等以外の書類等」が正確。
1-2. カッコ書きの限定の意味
左欄に付された「計算し、又は整理するために用いたものに限る」は、書面添付制度の趣旨を反映した重要な限定です。
- 「計算し」=課税価格・税額の算定に直接使った一次資料
- 「整理し」=課税対象の範囲確定・財産の評価・債務控除等の事実整理に使った資料
- 「ために用いたものに限る」=単に手元にあった資料や参考に見ただけの資料を除外する趣旨。申告書の計算・整理プロセスに実際に投入した資料に限定
1-3. 右欄「左記の書類等以外の書類等」の意味
提示を受けたが計算・整理には直接使わなかった書類を記載する欄です。事実確認のためだけに見た資料、参考までに提示されたが申告書作成には反映しなかった資料などが該当します。
1-4. 東京国税局の公式記載例(令和6年3月版)
左欄(公式記載例の原文)
法定相続情報一覧図の写し、住民票の写し、戸籍の附票の写し、遺産分割協議書、登記事項証明書、固定資産評価証明書、測量図、住宅地図、賃貸借契約書、預金の証書及び通帳、残高証明書、保険証券、債務及び葬式費用の対象となる領収書、過去の所得税及び復興特別所得税の確定申告書・決算書(控)、法人税申告書(控)、贈与税の申告書(控)等
右欄(公式記載例の原文)
税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔相続税〕を活用・添付した場合は、『別添チェックシートの確認書類に同じ』と記載する。
東京国税局推奨の標準的書き方:
左欄=計算・整理に直接使った主要書類を具体的に列挙
右欄=チェックシート別添で網羅性を担保
1-5. 個別書類の判断基準
| 書類 | 該当欄 | 理由 |
| 登記事項証明書(被相続人名義不動産) | 左欄 | 不動産の特定・面積確認に使用 |
| 固定資産評価証明書 | 左欄 | 家屋評価・倍率方式の基礎 |
| 預金通帳・残高証明書 | 左欄 | 残高計上の直接の証憑 |
| 保険証券・支払通知書 | 左欄 | みなし相続財産の計算根拠 |
| 法定相続情報一覧図・戸籍関係 | 左欄 | 法定相続人の整理(東京国税局例に従う) |
| 遺産分割協議書 | 左欄 | 取得財産の特定(整理) |
| 賃貸借契約書 | 左欄 | 貸家建付地・貸家評価の根拠 |
| 過去の所得税確定申告書(控) | 左欄 | 不動産所得から賃貸状況を確認 |
| 贈与税申告書(控) | 左欄 | 名義財産の帰属判定・贈与加算 |
| 領収書(葬式費用等) | 左欄 | 債務控除額の計算根拠 |
| 参考までに見たが結論的に使わなかった書類 | 右欄 | 計算・整理には用いていない |
| 個別書類列挙の網羅性担保用 | 右欄 | 「別添チェックシートの確認書類に同じ」 |
1-6. チェックシート〔相続税〕の構造
チェックシート〔相続税〕は全8ページの定型確認書類リストで、以下の項目について「●=法定添付書類」「○=提出推奨書類」「◇=添付不要だが確認すべき書類」と区分されています。
- 相続税の納税地
- 相続人等(法定相続人、未成年者・障害者)
- 相続財産の分割等(遺産分割協議書、遺言書)
- 不動産(未登記、共有、先代名義、他市区町村所在、国外所在、借地権)
- 有価証券(名義株、株式の割当て、増資、国外)
- 現金・預貯金等(直前出金、5年分の入出金検証、名義預金、国外、既経過利息)
- 事業用・家庭用財産
- 生命保険金(契約者と保険料負担者の確認)
- 退職手当金等、立木
- その他財産(未収金、貸付金、庭園設備、貴金属、ゴルフ会員権、特許権等、還付金、損害保険、結婚子育て・教育資金贈与の残額)
- 相続時精算課税適用財産
- 生前贈与財産の相続財産への加算
被相続人に不動産所得があった場合は、東京国税局個人課税課が別途発出している「書面添付制度に係る書面の記載例 個人課税関係(不動産所得)」および「税理士法第33条の2の書面添付に係るチェックシート〔不動産所得用〕」の併用も推奨されています。
2. 「2 自ら作成記入した書類等に関する事項」欄
2-1. 欄の正式名称と構造
| 左欄 | 右欄 |
| 書類等の名称 | 作成記入の基礎となった書類等 |
1欄が「提示資料というインプットだけ」を示すのに対し、2欄は「税理士が作ったアウトプット × そのアウトプットを生んだ個別のインプット」というペア構造で記載します。これにより税務署は「この評価明細書はあの資料から作られた」という因果関係を辿ることができます。
2-2. 公式記載例(東京国税局・シンプル方式)
| 書類等の名称(左欄) | 作成記入の基礎となった書類等(右欄) |
| 申告書及び添付書類 | 「1 提示を受けた書類等に関する事項」の「書類等(…計算し、又は整理するために用いたもの…)の名称」に同じ |
| 土地評価明細書その他の財産評価明細書 | 同上 |
2-3. より丁寧な記載例(評価明細書ごとに基礎資料を書き分ける)
| 自ら作成した書類 | 作成記入の基礎となった書類 |
| 申告書本体(第1表〜第15表) | 1欄の全資料 |
| 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書 | 公図、測量図、登記事項証明書、路線価図、固定資産評価証明書、賃貸借契約書、現地調査写真 |
| 取引相場のない株式(出資)の評価明細書(第1表〜第5表) | 法人税申告書(控)3期分、決算書3期分、株主名簿、定款 |
| 上場株式の評価明細書 | 取引残高報告書、株価データ |
| 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書(第11表の2付表) | 戸籍の附票、住民票、遺産分割協議書、賃貸借契約書、介護保険被保険者証 |
| 「地積規模の大きな宅地の評価」の適用要件チェックシート | 路線価図、都市計画図、実測図 |
| 配偶者の税額軽減の計算書(第5表) | 遺産分割協議書、戸籍謄本 |
| 預金移動表(独自検証資料) | 過去5〜10年分の預金通帳(被相続人および各相続人) |
| 現地調査メモ・写真集 | 現地撮影写真、公図、地積測量図 |
| 名義財産帰属判定メモ | 各名義人の収入履歴、通帳管理状況の聴取記録 |
特に税理士が独自に作成した検証資料(預金移動表、生前贈与確認書、親族名義財産帰属判定メモなど)を左欄に挙げ、右欄でその根拠資料を示すと、税理士の検証痕跡が明確になり意見聴取段階での説明力が大きく向上します。
3. 「3 計算し、整理した主な事項」欄(書面添付の心臓部)
3-1. 欄の構造(2段組)
この欄は(1)と(2)に分かれています。
(1)区分/事項/備考の3列構造(公式記載要領)
- 区分:取得財産、債務等
- 事項:「区分」ごとに、計算・整理した内容を具体的に記載するとともに、関係資料との確認方法及びその程度等
- 備考:「区分」ごとに、計算・整理の際に留意した事項等
(2)「(1)のうち個別的・特徴的な事項」欄
(1)に記載したもののうち、個別的・特徴的である事項について、その内容を簡記し、その詳細等を「備考」欄に具体的に記載する。
(2)欄は(資)版固有の構造です。汎用版(資なし)では「顕著な増減事項」「会計処理方法に変更等があった事項」となっており、用途が異なります。
趣旨は、調査官が真っ先に疑念を持つ「お金の流れの不自然さ」を、税理士の側から先回りして説明することにあります。
3-2. 各区分の記載例(東京国税局公式・要点)
【土地】
- 「土地の利用状況等について現地確認を行い、公図及び測量図を基に土地の形状や建物の利用状況等を確認し、評価を行った」
- 「先代名義の土地は確認できなかった」(陰性所見も能動的に記録)
- 「土地については、全て実測面積で計算した」
- 「貸ビルAの○室は相続開始日以前から長期間空室であり、一時的に空室となっていたものではないため、賃貸割合に応じて貸家建付地と自用地部分に按分して評価した」
- 「○○町は被相続人の主宰する㈱Aに賃貸し、無償返還の届出書の提出を確認したので、自用地評価額の80%相当額で評価し、㈱Aの株式評価上、純資産価額に20%相当額を計上した」
- 「自宅敷地については、同居親族である長男が取得し居住を継続していることから、特定居住用宅地等として小規模宅地等の計算の特例を適用した」
【建物】
- 賃貸割合に応じた貸家評価
- 建築中家屋の費用現価×70/100評価
- 未登記物件を相続人聴取・固定資産評価証明書照合で計上
- 国外コンドミニアム(ジョイントテナンシー)の持分1/2計上と鑑定評価依頼
【有価証券】
- 「各相続人名義の株式については、被相続人からの贈与により取得したものであるが、贈与税の申告がされており、各相続人に確認したところ、贈与の事実が確認されたことから、被相続人の財産とは認められなかった」
- 「孫○○名義の㈱A株式100株については、贈与税の申告がなく、また、その取得の原資、株の管理状況及び配当の受取口座(被相続人名義口座)から、被相続人に帰属するものと認められるため、相続財産として計上した」(名義株を相続財産に取り込んだ判定根拠)
- 「㈱A株式の評価については、法人税申告書及び決算書等により事業規模を確認し、大会社と判定されたが、類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額を上回っていたため、純資産価額方式を採用した」
【現金・預貯金】(最も重要・税務調査で問題になりやすい)
- 「預貯金については、家族名義も含めて、保有する全ての通帳の提示を受け、過去5年間の取引状況、相続人の収入及び生活状況を勘案の上、検討した」(網羅性と検討期間を明示)
- 「現金については、相続人からの聴き取り及び預貯金の取引状況により確認し、生活費として手元にあった20万円のほか、相続開始直前に出金された500万円及び貸金庫に保管されていた500万円の合計1,020万円を現金として計上した」
- 「妻名義の定期預金(1口150万円)は、被相続人名義の預金(不動産収入が原資)から出金した資金により作成されたものであり、妻に確認したところ、贈与の事実もなく、管理運用状況から、被相続人に帰属する財産であることが確認されたため、相続財産として計上した」(名義預金の帰属認定の典型)
- 「○○銀行ホノルル支店の普通預金は被相続人と妻のジョイントアカウントであり、口座開設時の入金状況及びその後の口座の管理運用状況について検討したところ、両名固有の資産と認められたことから預金残高の1/2を相続財産として計上した」
- 「既経過利息も含め相続財産に計上した」
【生命保険金】
- 「○○生命から1,200万円、△△生命から2,500万円の死亡生命保険金が支払われていたことから、相続財産に計上した」
- 「契約者が妻名義及び長男名義であったが、保険料は被相続人名義口座から出金されており、保険料負担者は被相続人と判断されたため、生命保険に関する権利として相続財産に計上した」(契約者と保険料負担者の不一致処理)
【その他の財産】
- 積立火災保険の解約返戻金相当額計上
- 入院給付金(相続開始後支払)の計上
- 金地金の保管確認、ゴルフ会員権の確認
- 準確定申告の還付金計上
- 立替金の計上
- 生前贈与加算(令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後の贈与から段階的に3年内→7年内へ。完全7年内加算は令和13年1月1日以後の相続から。延長された4年分には合計100万円控除あり)と贈与税額控除
- 主宰法人への貸付金の計上
【債務・葬式費用】
- 借入金は残高証明書+聴取+資産取得状況から確認
- 預かり保証金(敷金)の計上根拠
- 葬式費用は領収書から墓石購入費用・香典返しを除いて計上
- 未納固定資産税の計上
- 団体信用生命保険付き住宅ローンは借入金に計上していない(債務控除否定の明示)
3-3. (2)「個別的・特徴的な事項」欄の記載例
調査官が疑念を持ちやすい不自然な資金移動の説明を、税理士の側から先回りで行う欄です。
- 「相続開始3年前に貸アパートを建築するための資金として、被相続人名義の預貯金が減少するとともに、○○銀行○○支店からの借入金が発生している」(預金大幅減少の理由説明)
- 「相続開始○年前から、医療費として年間200万円の出金が認められた」(継続的な大額出金の説明)
- 「相続開始直前の○月○日、被相続人名義の○○銀行○○支店の普通預金から出金された500万円は、長男が葬儀に備え出金したもので、相続開始時点では現金で手元に保管されているものと認められたため、現金として計上した」
- 「相続開始3年前に○○町(宅地)を3,000万円で譲渡しており、税金500万円のほか、2,000万円は貸ビルAの建築資金に、残り500万円については、○○銀行○○支店の貸金庫に保管しており、相続開始時点でも現金で保管されているものと認められたため、現金として計上した」(譲渡代金の使途完全追跡)
- 「相続開始5年前に出金された300万円について、相続人に確認した結果、150万円は教育費として費消し、残額の150万円は妻名義口座に預けられていたことが判明したことから、名義預金として相続財産に計上した」(過去の使途不明出金の解明と名義預金認定)
4. 「4 相談に応じた事項」欄
4-1. 公式記載要領
法第2条第1項第3号に規定する税務相談に関し特に重要な事項に関する相談項目を「事項」欄に記載し、その相談内容、回答要旨、申告書への反映状況等を、「相談の要旨」欄に記載してください。
4-2. 東京国税局の記載例
| 事項 | 相談の要旨 |
| 相続財産の範囲 |
財産の名義にかかわらず被相続人に帰属する財産は相続財産として計上する必要がある旨を相続人に説明した上で、相続人及びその家族の名義による財産について預金通帳等を確認しながら、贈与関係、保有状況及び取引状況を確認した。なお、相続人に相続時精算課税の適用の有無について確認したところ、該当はなかった。 |
| 遺産分割協議 |
申告に当たっては、各種特例を最大限に活用できるよう遺産分割を行いたい旨の相談があり、相法19の2(配偶者税額軽減)及び措法69の4(小規模宅地等の特例)の各規定を最大限に適用する場合の計算方法について説明した。この結果、全ての相続人の合意のもと、遺産分割協議書が作成され、居住用建物の敷地について小規模宅地等の特例を適用することとした。 |
4-3. 相続税で記載する典型的な相談事項
- 相続財産の範囲(名義財産の取扱い)
- 遺産分割の方針と特例適用
- 配偶者税額軽減と二次相続を踏まえた取得割合シミュレーション
- 小規模宅地等の特例の選択(複数候補がある場合)
- 相続時精算課税の選択履歴と精算
- 国外財産の取扱い
- 非上場株式の評価方法
- 物納・延納の可否
- 未分割部分の取扱い(3年以内の分割見込書、更正請求)
5. 「5 総合所見」欄
5-1. 公式記載要領
申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項の総合的な所見を記載してください。
3欄・4欄に書ききれない横断的な検討事項、被相続人の生活状況・財産形成の沿革、家族の固有資産の判定経緯などを記載し、意見聴取の場で「この申告書全体としての税理士の見立て」を伝える欄です。
5-2. 東京国税局の記載例の要点
- 被相続人の住所地の判断:「Y市の介護付有料老人ホームに入居した。この際、住民票、社会保険関係等の住所の異動は行っていないが、入居後は、死亡時まで当該施設において日常生活を送っていたことから、被相続人の死亡時の住所地は当該老人ホームのあるY市と判断した」(住民票と生活の本拠の不一致を税理士が判断した経緯)
- 各相続人の固有財産の根拠:「家族名義預金と判断したもの以外の各相続人及び親族名義の預貯金は、各々の収入等を原資として蓄積されたものであることから、相続人の固有財産と判断して相続財産には計上しなかった」
- 過去5年間の入出金検証結果:「過去5年間の預貯金の入出金を確認したところ、上記3に記載した以外にも、被相続人名義の預貯金から○○万円の出金が数回見受けられたため、使途、贈与の有無などを相続人に確認し、贈与加算すべきものの有無などを検討した。その結果、相続開始直前の出金は現金として計上し、それ以外の出金は、生活費及び医療費として出金されている事実が確認できたため、相続財産として計上しなかった」(「調べたが該当なし」を能動的に記録)
総合所見は、税理士の監査痕跡そのものです。形式的に「適正に作成しました」とだけ書く例も散見されますが、それでは意見聴取省略・調査省略の効果はほとんど期待できません。
6. 「6 その他」欄
6-1. 公式記載要領
「1 提示を受けた書類等に関する事項」欄から「5 総合所見」欄までの各欄に記載した事項以外の事項で、記載すべき事項(例えば、申告書の作成に関し、計算し、整理した事項以外の事項で個別的・特徴的である事項や、納税者の税に関する認識、申告書作成に当たって留意した事項など)があれば記載してください。
加えて、依頼者が複数いる場合(共同相続申告)に依頼者代表以外の依頼者氏名・住所を書く欄でもあります(記載要領3)。
6-2. 東京国税局の記載例
・その他の依頼者 東京二郎 X市○○区○○町2-2-2/東京三郎 Z市○○区○○町3-3-3
・その他確認した事項 被相続人は、○○大学卒業後、○○㈱の社員として25年勤務し、平成○○年に、○○を業とする㈱Aを設立した。平成○○年に脳梗塞を発症し、Y市の老人ホームに転居後も約7年間に渡り入退院を繰り返していたが、令和○年○月肺炎で入院し、同年同月○日に死亡した(享年○○歳)。主な収入:㈱Aの役員報酬、不動産収入 趣味:ゴルフ
被相続人の経歴・職業・収入源・健康状態・趣味などの背景情報は、財産形成の合理性(なぜこれだけの財産が形成されたか)を説明し、また「趣味=ゴルフ」からゴルフ会員権の保有可能性を検討した痕跡を示すなど、調査官が抱きそうな疑問を先回りで潰す機能を持ちます。
7. 表紙ブロックの記載上の留意点
| 項目 | 注意点 |
| 添付する申告書の特定 | 「相続税申告書(令和○年○月○日相続開始分)に係る」と記載 |
| 税務代理権限証書の提出 | 「有(相続税)」と記載(公式記載要領「『有』の場合には、法第2条第1項第1号に規定する税務代理の委任を受けた税目を( )内に記載してください」) |
| 依頼者 | 代表1名のみを記載、他は6欄へ |
| 被相続人 | 資版固有の欄。氏名と最後の住所地(総合所見の住所地判断と整合) |
| ※事務処理欄 | 公式記載要領9「『※』印の欄は記入しないでください」のとおり、税理士は記入しない |
8. 制度の効果と意見聴取制度との関係
8-1. 調査通知前の意見聴取
書面添付+税務代理権限証書のセット提出申告について税務調査を実施しようとする場合、税務署は事前に税理士に対して意見聴取を行わなければなりません(税理士法35条1項、平成26年改正で「事前通知前→調査通知前」へ用語変更)。意見聴取で疑問が解消されれば「現時点で調査の必要なし」となり、実地調査が省略されます。
8-2. 加算税の取扱い
加算税の取扱いについては、平成23年12月改正(国税通則法による税務調査手続の法定化、平成25年1月1日施行)と国税庁FAQ(平成24年9月「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」)による運用整理により、意見聴取は「調査」に該当しないとされ、意見聴取後に納税者が自発的に提出した修正申告は「更正を予知してされたものではない」ものとして過少申告加算税不課税となります。
平成28年度税制改正(H29.1.1施行)の重要ポイント:
国税通則法65条5項に「調査通知後・更正予知前」の修正申告に新たに5%(一定額超部分10%)の過少申告加算税を課す規定が設けられました。
ただし、意見聴取は「調査通知前」に行われるため、意見聴取段階の自発的修正申告は引き続き加算税不課税です。延滞税は通常通り課税されます。
8-3. 書面添付実施率の最新値(国税庁実績評価書ベース)
| 税目 | 書面添付割合 |
| 相続税 | 令和4事務年度 23.4%/令和5事務年度 24.3% |
| 所得税 | 約1.5% |
| 法人税 | 約10% |
9. 質の高い書面添付の10原則
- 「特になし」「上記のとおり」の多用は最悪。逆に調査を誘発する。
- 税務署が疑問を持つ論点(名義預金・生前贈与・現金管理・贈与加算・住所地判定・小規模宅地特例の要件)を先回りで潰す。
- 「いつ・誰に・どの資料で・どう確認したか」を具体的に書く。
- 数字の根拠(補正率、計算式、選定理由)まで書く。
- コピペ・テンプレ丸写しは逆効果。事務運営指針も「個別性の反映」を求めている。
- 陰性所見も能動的に記録「○○を確認したが該当なし」と書く。
- 過去5〜10年の通帳を全相続人分・全口座確認し、預金移動表を作成。
- 現地調査の事実・写真・図面で評価補正の根拠を残す。
- 貸金庫開披の事実を「その他」に明記。
- 生前贈与の有無を相続人全員から書面で確認、書面添付に記載。
10. 形式的書面添付の懲戒リスク
税理士法上、懲戒処分の種類は税理士法44条に「戒告」「2年以内の業務の停止」「業務の禁止」の3類型が定められ、その事由は45条(不真正税務書類作成等)および46条(一般の懲戒)にあります。重要な誤りが発覚した場合、虚偽記載として懲戒事由に該当する可能性があるため、形式的な書面添付は実害が大きい点に留意が必要です。
11. 主要参照URL
11-1. 最重要・公式記載例
11-2. 公式制度解説
11-3. 主要実務家解説